2011-09-26(Mon)
花咲くいろは #26 花咲くいつか
夢を見据えた緒花の瞳はどこでだって輝く。

花咲くいろは、いい最終回でした。

ぼんぼり祭りの夜景で引いた前回からみなさんは祭りへゴー! いくら一仕事終えた後とはいえ全員で出掛けちゃっていいの? しかもあれほど邪険に扱っていた望み札をいつの間にか手に携え…こういう流れはじつにTVドラマっぽいなあ。「貯蓄(?)」と書かれた巴さんの望み札は婚き遅れアラサー女の悲哀を感じさせるというかリアルすぎる望みというか、最終回くらい手加減してさしあげて(笑
「望み札」を絡めながらぼんぼり祭りを歩くみなさんの描写。エニシングの望みは読み取れなかったけれどおそらくBパートで明らかにされる彼の決意が書かれていたのでしょう、その内容に一瞬目を丸くしながら穏やかな表情を返す崇子さんはいい女になったものです。コンサルとして絡んでいた時期は質の悪いトラブルメーカーだったのに。
孝ちゃんを捜しに走る緒花が掛けていた望み札を皐月さんが発見。そこに書かれていた緒花の望みとは「四十万スイになりたい」というものでした。喜翆荘へ来た当時はあれほど嫌っていたのにね(笑。共に過ごした数ヶ月にて女将さんの本質・厳しさの裏側にあるものを知り、ついには「目標」となった。おそらくこれまで喜翆荘を支えてきたたくさんの人たちは、緒花と同様に女将さんのそんな気質に惚れてきたのでしょう。外面だけ良くしても人は付いて来ないのです。
閑話休題。誰より孫娘からそんな目で見られたら嬉しくないはずがありません。またそのために「ぼんぼる」孫娘を慈しむ優しさが、望み札を眺める女将さんの表情に現れていました。いい表情だなあ。
その一方で賑やかな娘たちの様子。民子が掛けた望み札はもちろん徹さん関連なのだけれど、あくまで「料理人」として追い付きたいというもので、これは最後の最後まで素直になれない民子のキャラがよく出ていますね。「減るもんじゃねえしよ~」と囃し立てる結名はおっさんか!(笑

ぼんぼりの列に導かれるように走った緒花と孝ちゃんのご対面。道路を挟んだ対面は第一話で見せた横断歩道(信号ギリギリでサッと渡って孝ちゃんを振り切るシーン)の裏返しか。しかしようやく見つけたはいいけど緒花は言葉に詰まって上手く話せず…傍らを流れる人々の描写との対比が効いて、二人まるで時間の流れから外れているように見えます。つまり完全に二人の世界に入っちゃっているということ。
言うべきことは判っているのにどうしても口に出せず、その言葉を待つ孝ちゃんへいきなり「やきそば食べたい!」と叫んじゃう緒花がかわいい。あはは。やきそばを待ちながらのしょうもない会話の流れからついに「好き!」と叫ぶ緒花、突然の告白に固まる二人を崩すハート印のやきそばには笑った。屋台のおっちゃんいい仕事してるね(笑
「私を夢見てくれる孫もいる。許されるならもう一度…」
ほんぼり祭りも最高潮となり、望み札の炊き上げを見守る女将さんは亡き夫へ思いを語ります。「自身の夢」へ向かって一人で走ってきたつもりだったけれどそうではなかった。その夢は周りの人の夢でもあったことに気付き、しかもそんな自分を認めてくれた孫娘もいる。頑なだった女将さんも緒花の登場によって一つ成長したのですね。これにて女将さんは考えを変え、喜翆荘存続で大団円の流れ…と思いきや。

「喜翆荘を閉じること、俺同意するよ」
縁はついに自分の器量を認めて喜翆荘閉鎖に同意、まさかこういう展開になるとは!? 確かに今の縁が引き継いでも潰れるのは時間の問題で、ならば戻って来た皐月さんと力を合わせ、緒花も女将さんも一緒に…なーんて甘い話はありませんでした。しかしこれにて「喜翆荘再建」は「縁の夢」として確固たるものとなり、離れて行くみなさんも再び喜翆荘へ集まる日を各々の「夢」にすることができた。女将さんが作り上げた喜翆荘は文字通り「みんなの夢」になったのです。これほどまで喜翆荘を愛しているみなさんをして女将さんは「バカだねえ」と呟きますが、その表情はまさに「バカな子ほどかわいい」といったものでじつに微笑ましい。
「私もぼんぼるよ。憎たらしい母親で居続けてやるよ」
女将さんは酔い潰れて寝てしまった時の話をきちんと聞いていたのだなあ。閉館後の身の振り方を心配する皐月さんへ生涯現役を宣言する女将さん、背筋をピンと伸ばした凛々しい後姿でこう言われちゃ土下座するしかありません(笑。しかし寄る年波の持病は大丈夫なのだろうか。結局終わってみれば女将さんの持病設定は単なるスパイスでしたね。もちろん元気なのが一番だけれど、あまりピンシャンされても釈然としないかも。
「居場所は自分で見つけて自分で作っていくもの」
一方の孝ちゃんは次郎丸の部屋にご宿泊です。喜翆荘で見た緒花は東京にいた頃の「夢も目標も無くふらふらしていた緒花」とは違って「自分の居場所」を見つけていた。それは自分から動かなければ見つけられないもので、孝ちゃんが東京で見たDVDの緒花に目映さを感じたのはその変化によるものだったのかもしれません。そして「居場所」に絡めて緒花への返事、さあいよいよ!という時に次郎丸がやらかしてくれました。あはは。でも次郎丸の部屋なんだからしょうがないよねえ(笑

「勝ち負けじゃ無いの! いろいろ」
引き続き喜翆荘へ泊まり込みの菜子。髪を下ろした菜子もかわいいかわいい、その後で民子が抱き締める寿司クッションは東京遠征の時に徹さんが山ほど取ったプライズの戦利品か。ちゃんと使ってるのね(笑。孝ちゃんの陰口をグチグチの民子へ襲いかかる菜子の表情変化もかわいかったです。ギスギスが続いて気持ちが落ちていた菜子を救った緒花の言葉はよほど心に残っているのでしょう。
てな所へ緒花がやってきました。喜翆荘での緒花の居場所は祖母と母が揃う部屋ではなく、民子と過ごしたこの部屋なのです。前回できなかった分、この後きっと娘三人で遅くまでおしゃべりしていたのだろうなあ。自分の居場所を取り戻せてよかったね緒花。
熊鈴を鳴らしながら朝のお散歩、ではなく買い出し? 菜子は「肉まん買い忘れちゃった」とか言うてましたが自分のまんま肉ま(以下自重。見上げる喜翆荘との距離からして歩いて行くには遠そうだけれど田舎の人は苦にならんのか(笑。朝靄の中を歩いていた三人は喜翆荘を眺め、再び集まる日を夢見る。娘たちのそんな思いを応援するように朝日が喜翆荘を照らし、娘たちを照らすカットは極上の美しさでした。

そして喜翆荘閉館の日。看板を外されるといよいよだなあと傍目にもしんみり、大泣きの巴さんはともかく蓮さんが号泣してるのには笑った。女将さんがふくや女将に頭を下げているのは建物の保存に加えて縁夫妻の受け入れのこともありそう。そういやふくや女将も大した出番がありませんでしたね。初登場時はもっと意地悪キャラとして台頭するかと思ったけれど。
去り際の豆じいが女将さんを「スイちゃん」と呼んだのは驚き。きっと豆じいとの間にもいろんなドラマがあっただろうにほとんど触れられないまま終わってしまったのも残念でした。まあそっちの話を語り始めたら本当に細腕繁盛記になっちゃうか(笑
誰もいなくなってひっそりと静まる館内を歩く女将さん。賑やかだった日々を思い返しながら、それこそ柱の傷から壁のシミまで全てが思い出の建物を離れるってのは言葉にならない寂しさでしょうね。そんな建物にお別れを告げるように館内を回り、すると階段に亡き夫の姿を見つけます。まるで女将さんを黄泉の世界へ導いているような…そっちへ行っちゃダメだ!
あと一歩の所で女将さんが足を止めたのは背後から聞こえる「誰かの声」に気付いたから。それは「女将さんに行ってもらっちゃ困る人」の声でした。何とも上手いね。

「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」
第一話にて描かれた初仕事のリフレイン、気合いを入れながら雑巾掛けをする緒花の声が響き渡ります。緒花の喜翆荘での仕事はこの廊下で始まって終わるのだね。やられた。
「ここに、喜翆荘にお別れしたくて」
思いがけない緒花の言葉に胸一杯の女将さん。とっくに出発したと思っていた孫娘は自分と同じ事、喜翆荘へのお別れをしていたのです。もちろん喜翆荘に関わった時間は天と地ほどの差はあるけれど、喜翆荘へ対する思いは時の長短を越えるものだった。これにはさすがの女将も目頭を押さえ、見ている私は押さえきれずに画面が見えない。「ここの杢目が顔に見える」ってな照れ隠しも、緒花がこの廊下・建物にいかに思い入れがあるかわかります。
その後の駅でのお別れシーン。緒花を見下ろすアングルから始まるこのシーンにて「喜翆荘への強い思い」が伝わるにつれて二人の高さが変化していく演出は面白かった。人がいればドラマは起きる、きっとここじゃなくてもドラマは起こせる。それでもここへ帰って来たい。ドラマチックな人生に憧れていた緒花は喜翆荘で暮らすうちにその本質に気付き、だからこそ「ここ」でドラマの続きを起こしたいのでしょう。
緒花の思いが通じたか女将さんは業務日誌を託し、つまり次代へのバトンを緒花へ託した。叫ぶ緒花の頬へそっと手を添える動きも「思いの継承」を感じさせるもの。これにて四十万スイの喜翆荘は完全に終わりを告げたのですね。見送る女将さんの表情は「緒花との別れ」とまた違った意味の寂しさを感じさせます。

誰もいなくなった喜翆荘から飛び立つ青鷺はストーリーの終焉、そして次への飛躍を象徴している感じ。ひょっとしたら「喜翆荘のしがらみ」を表した存在だったのかもしれません。
ここからはその後のみなさんの様子をチラリと。エニシング夫妻はふくや旅館で修行の身、海外留学へ向けて勉強中の結名はみんなで撮ったプリクラを見てやる気を出し、巴さんは宣言どおり小料理屋のお姉ちゃんに、などなど各々の道を歩んでおります。
板前修業先を探す民子を徹さんがフォロー? 全然関係ないけど民子の履歴書を見ると1994年生まれとか…つい最近じゃないか! セナが死んでもう17年も経つのか。今回一番びっくりした(笑
最後の最後で菜子が水着姿を披露してくれました。この水着姿は子供にゃ刺激が強すぎるだろう? とはいえ子供相手なら家で慣れているだろうし菜子には天職なのかも。あわあわしながら仲居仕事に追われるよりよほど合っているかも(と言ってしまえばシマイ。しかしこれでもう菜子に会えないなんて信じられぬ。ああ寂しい。

さて皐月さんと共に東京へ戻った緒花は忙しく朝食の準備をして相変わらずの生活でした。皐月さんも相変わらずぐうたら母ちゃんに戻ってます(笑。学校へ駆ける緒花の手には「心が温まる、和のおもてなし」。住む場所が変わっても仲居仕事への情熱は変わらず、喜翆荘へ戻る日のため勉強を続けているのですね。短い制服から肌色をチラチラさせながら光のドアを抜けてEDへ。ほんと上下共短いな。
OPでは坂道や階段を下っていた緒花が平坦な道を走る。これはローリングストーンだった日々が「日常」へ戻ったことの表れでしょう。しかし電車に追い抜かれ、通行人にぶつかりながら緒花は必死に走る。自身の夢へ近付くために。
踏み切りで出会った、電車の進行方向に逆らいながら光へ向かって飛ぶ蝶。他人が敷いたレールに乗るよりも自身の思いに「ぼんぼる」ことを覚えた緒花は飛び行く蝶に自分を重ねたか笑顔で見送り、路傍に咲く花を跳び越える。この花よりも大きく咲く日を目指して。
今はまだ、きっとつぼみ。
だけど、だからこそ、高く高い太陽を見上げる。
喉を鳴らして水を飲む。
私は、これから咲こうとしているんだ。
「花咲くいろは」というタイトルは、それまで何となく生きていた緒花が「人生の花」を咲かせるための事始めという意味でした。ドラマチックな人生を渇望しながら結局流されるままの日々を送っていた緒花は、喜翆荘での様々な経験で大きく変わったけれど、それはまだ「いろは」の段階。ここから先、変わった緒花がどう生きていくのか非常に気になるけれど物語はこれにて一段落です。ううむ歯がゆい。
喜翆荘が復活するのかそれはまだわかりません。みんな他の人生を歩み始め、各々の道で各々のドラマが起きて、各々の「しがらみ」が生まれ、そうこうしているうちに喜翆荘は「思い出」の一つに埋もれてしまうかもしれない。もしエニシングが声を掛けても誰も集まらないかもしれない。しかしそれでもいいと思うのです。一つ屋根の下で泣き笑った輝ける日々は幻ではなく、間違いなく各々の人生の「水」となったはず。各々の花を咲かせるために喉を鳴らして飲んだ水は決して無駄にはならないのだから。
関係ないけど喜翆荘再起の段に駆け付けた緒花がまめ爺の恰好をしてボイラー番をしている姿を想像したら世の儚さを感じてしまった。もしかして仲居姿より似合ってるかも?(笑
というわけで2クールに渡って楽しませてくれた「花咲くいろは」は今回でオシマイ、連載レビューもこれにて終了です。第一話だけサラッと書いて終了するつもりだったのにダラダラと結局全話レビューしてしまいました。毎度毎度のダラダラ文を読んでいただいていた読者諸兄に感謝、そしてもちろん素晴らしい作品を楽しませてくれた制作スタッフに感謝です。放映当初はあまりにクオリティが高い作画に「いつまで保つのやら」と危惧しましたが、結局最終回まで目立つ破綻もないまま、それどころか背景美術のクオリティなど毎回唸るほどの美しさを楽しませてくれました。これはちょっと週アニメとは思えない出来映えでしょう。ほんと心の底からお疲れ様と伝えたいです。
ストーリーについては言いたい事は山ほどありますが…最終回が意外と綺麗に纏まってしまったので特に記することもないか。終わり良ければ全て良しってことで。とはいえ作画・演出に比べるとストーリーの粗が目立ったというか、2クールの尺の余裕が妙な方向へ働いてしまった感が無きにしも非ず。また作品の性質上登場キャラが多すぎて、つまり個々のキャラの掘り下げがほとんどされないまま終わっちゃって残念。個性的なドラマを持っていそうなキャラがたくさんいたのに。やはり連ドラは一年やらないとダメだ(無謀。ちなみに最終回付近で全員が善人にジョブチェンジするのはこのテの連ドラのお約束事なのでその点について私は無問題です。まあその辺の総括的なことは2~3日経って気分が落ちついたら追記するかもしないかも。
ではみなさまお疲れさまでした。次期も他の作品レビューでお会いできましたら幸い。
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花咲くいろは、いい最終回でした。

ぼんぼり祭りの夜景で引いた前回からみなさんは祭りへゴー! いくら一仕事終えた後とはいえ全員で出掛けちゃっていいの? しかもあれほど邪険に扱っていた望み札をいつの間にか手に携え…こういう流れはじつにTVドラマっぽいなあ。「貯蓄(?)」と書かれた巴さんの望み札は婚き遅れアラサー女の悲哀を感じさせるというかリアルすぎる望みというか、最終回くらい手加減してさしあげて(笑
「望み札」を絡めながらぼんぼり祭りを歩くみなさんの描写。エニシングの望みは読み取れなかったけれどおそらくBパートで明らかにされる彼の決意が書かれていたのでしょう、その内容に一瞬目を丸くしながら穏やかな表情を返す崇子さんはいい女になったものです。コンサルとして絡んでいた時期は質の悪いトラブルメーカーだったのに。
孝ちゃんを捜しに走る緒花が掛けていた望み札を皐月さんが発見。そこに書かれていた緒花の望みとは「四十万スイになりたい」というものでした。喜翆荘へ来た当時はあれほど嫌っていたのにね(笑。共に過ごした数ヶ月にて女将さんの本質・厳しさの裏側にあるものを知り、ついには「目標」となった。おそらくこれまで喜翆荘を支えてきたたくさんの人たちは、緒花と同様に女将さんのそんな気質に惚れてきたのでしょう。外面だけ良くしても人は付いて来ないのです。
閑話休題。誰より孫娘からそんな目で見られたら嬉しくないはずがありません。またそのために「ぼんぼる」孫娘を慈しむ優しさが、望み札を眺める女将さんの表情に現れていました。いい表情だなあ。
その一方で賑やかな娘たちの様子。民子が掛けた望み札はもちろん徹さん関連なのだけれど、あくまで「料理人」として追い付きたいというもので、これは最後の最後まで素直になれない民子のキャラがよく出ていますね。「減るもんじゃねえしよ~」と囃し立てる結名はおっさんか!(笑

ぼんぼりの列に導かれるように走った緒花と孝ちゃんのご対面。道路を挟んだ対面は第一話で見せた横断歩道(信号ギリギリでサッと渡って孝ちゃんを振り切るシーン)の裏返しか。しかしようやく見つけたはいいけど緒花は言葉に詰まって上手く話せず…傍らを流れる人々の描写との対比が効いて、二人まるで時間の流れから外れているように見えます。つまり完全に二人の世界に入っちゃっているということ。
言うべきことは判っているのにどうしても口に出せず、その言葉を待つ孝ちゃんへいきなり「やきそば食べたい!」と叫んじゃう緒花がかわいい。あはは。やきそばを待ちながらのしょうもない会話の流れからついに「好き!」と叫ぶ緒花、突然の告白に固まる二人を崩すハート印のやきそばには笑った。屋台のおっちゃんいい仕事してるね(笑
「私を夢見てくれる孫もいる。許されるならもう一度…」
ほんぼり祭りも最高潮となり、望み札の炊き上げを見守る女将さんは亡き夫へ思いを語ります。「自身の夢」へ向かって一人で走ってきたつもりだったけれどそうではなかった。その夢は周りの人の夢でもあったことに気付き、しかもそんな自分を認めてくれた孫娘もいる。頑なだった女将さんも緒花の登場によって一つ成長したのですね。これにて女将さんは考えを変え、喜翆荘存続で大団円の流れ…と思いきや。

「喜翆荘を閉じること、俺同意するよ」
縁はついに自分の器量を認めて喜翆荘閉鎖に同意、まさかこういう展開になるとは!? 確かに今の縁が引き継いでも潰れるのは時間の問題で、ならば戻って来た皐月さんと力を合わせ、緒花も女将さんも一緒に…なーんて甘い話はありませんでした。しかしこれにて「喜翆荘再建」は「縁の夢」として確固たるものとなり、離れて行くみなさんも再び喜翆荘へ集まる日を各々の「夢」にすることができた。女将さんが作り上げた喜翆荘は文字通り「みんなの夢」になったのです。これほどまで喜翆荘を愛しているみなさんをして女将さんは「バカだねえ」と呟きますが、その表情はまさに「バカな子ほどかわいい」といったものでじつに微笑ましい。
「私もぼんぼるよ。憎たらしい母親で居続けてやるよ」
女将さんは酔い潰れて寝てしまった時の話をきちんと聞いていたのだなあ。閉館後の身の振り方を心配する皐月さんへ生涯現役を宣言する女将さん、背筋をピンと伸ばした凛々しい後姿でこう言われちゃ土下座するしかありません(笑。しかし寄る年波の持病は大丈夫なのだろうか。結局終わってみれば女将さんの持病設定は単なるスパイスでしたね。もちろん元気なのが一番だけれど、あまりピンシャンされても釈然としないかも。
「居場所は自分で見つけて自分で作っていくもの」
一方の孝ちゃんは次郎丸の部屋にご宿泊です。喜翆荘で見た緒花は東京にいた頃の「夢も目標も無くふらふらしていた緒花」とは違って「自分の居場所」を見つけていた。それは自分から動かなければ見つけられないもので、孝ちゃんが東京で見たDVDの緒花に目映さを感じたのはその変化によるものだったのかもしれません。そして「居場所」に絡めて緒花への返事、さあいよいよ!という時に次郎丸がやらかしてくれました。あはは。でも次郎丸の部屋なんだからしょうがないよねえ(笑

「勝ち負けじゃ無いの! いろいろ」
引き続き喜翆荘へ泊まり込みの菜子。髪を下ろした菜子もかわいいかわいい、その後で民子が抱き締める寿司クッションは東京遠征の時に徹さんが山ほど取ったプライズの戦利品か。ちゃんと使ってるのね(笑。孝ちゃんの陰口をグチグチの民子へ襲いかかる菜子の表情変化もかわいかったです。ギスギスが続いて気持ちが落ちていた菜子を救った緒花の言葉はよほど心に残っているのでしょう。
てな所へ緒花がやってきました。喜翆荘での緒花の居場所は祖母と母が揃う部屋ではなく、民子と過ごしたこの部屋なのです。前回できなかった分、この後きっと娘三人で遅くまでおしゃべりしていたのだろうなあ。自分の居場所を取り戻せてよかったね緒花。
熊鈴を鳴らしながら朝のお散歩、ではなく買い出し? 菜子は「肉まん買い忘れちゃった」とか言うてましたが自分のまんま肉ま(以下自重。見上げる喜翆荘との距離からして歩いて行くには遠そうだけれど田舎の人は苦にならんのか(笑。朝靄の中を歩いていた三人は喜翆荘を眺め、再び集まる日を夢見る。娘たちのそんな思いを応援するように朝日が喜翆荘を照らし、娘たちを照らすカットは極上の美しさでした。

そして喜翆荘閉館の日。看板を外されるといよいよだなあと傍目にもしんみり、大泣きの巴さんはともかく蓮さんが号泣してるのには笑った。女将さんがふくや女将に頭を下げているのは建物の保存に加えて縁夫妻の受け入れのこともありそう。そういやふくや女将も大した出番がありませんでしたね。初登場時はもっと意地悪キャラとして台頭するかと思ったけれど。
去り際の豆じいが女将さんを「スイちゃん」と呼んだのは驚き。きっと豆じいとの間にもいろんなドラマがあっただろうにほとんど触れられないまま終わってしまったのも残念でした。まあそっちの話を語り始めたら本当に細腕繁盛記になっちゃうか(笑
誰もいなくなってひっそりと静まる館内を歩く女将さん。賑やかだった日々を思い返しながら、それこそ柱の傷から壁のシミまで全てが思い出の建物を離れるってのは言葉にならない寂しさでしょうね。そんな建物にお別れを告げるように館内を回り、すると階段に亡き夫の姿を見つけます。まるで女将さんを黄泉の世界へ導いているような…そっちへ行っちゃダメだ!
あと一歩の所で女将さんが足を止めたのは背後から聞こえる「誰かの声」に気付いたから。それは「女将さんに行ってもらっちゃ困る人」の声でした。何とも上手いね。

「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!」
第一話にて描かれた初仕事のリフレイン、気合いを入れながら雑巾掛けをする緒花の声が響き渡ります。緒花の喜翆荘での仕事はこの廊下で始まって終わるのだね。やられた。
「ここに、喜翆荘にお別れしたくて」
思いがけない緒花の言葉に胸一杯の女将さん。とっくに出発したと思っていた孫娘は自分と同じ事、喜翆荘へのお別れをしていたのです。もちろん喜翆荘に関わった時間は天と地ほどの差はあるけれど、喜翆荘へ対する思いは時の長短を越えるものだった。これにはさすがの女将も目頭を押さえ、見ている私は押さえきれずに画面が見えない。「ここの杢目が顔に見える」ってな照れ隠しも、緒花がこの廊下・建物にいかに思い入れがあるかわかります。
その後の駅でのお別れシーン。緒花を見下ろすアングルから始まるこのシーンにて「喜翆荘への強い思い」が伝わるにつれて二人の高さが変化していく演出は面白かった。人がいればドラマは起きる、きっとここじゃなくてもドラマは起こせる。それでもここへ帰って来たい。ドラマチックな人生に憧れていた緒花は喜翆荘で暮らすうちにその本質に気付き、だからこそ「ここ」でドラマの続きを起こしたいのでしょう。
緒花の思いが通じたか女将さんは業務日誌を託し、つまり次代へのバトンを緒花へ託した。叫ぶ緒花の頬へそっと手を添える動きも「思いの継承」を感じさせるもの。これにて四十万スイの喜翆荘は完全に終わりを告げたのですね。見送る女将さんの表情は「緒花との別れ」とまた違った意味の寂しさを感じさせます。

誰もいなくなった喜翆荘から飛び立つ青鷺はストーリーの終焉、そして次への飛躍を象徴している感じ。ひょっとしたら「喜翆荘のしがらみ」を表した存在だったのかもしれません。
ここからはその後のみなさんの様子をチラリと。エニシング夫妻はふくや旅館で修行の身、海外留学へ向けて勉強中の結名はみんなで撮ったプリクラを見てやる気を出し、巴さんは宣言どおり小料理屋のお姉ちゃんに、などなど各々の道を歩んでおります。
板前修業先を探す民子を徹さんがフォロー? 全然関係ないけど民子の履歴書を見ると1994年生まれとか…つい最近じゃないか! セナが死んでもう17年も経つのか。今回一番びっくりした(笑
最後の最後で菜子が水着姿を披露してくれました。この水着姿は子供にゃ刺激が強すぎるだろう? とはいえ子供相手なら家で慣れているだろうし菜子には天職なのかも。あわあわしながら仲居仕事に追われるよりよほど合っているかも(と言ってしまえばシマイ。しかしこれでもう菜子に会えないなんて信じられぬ。ああ寂しい。

さて皐月さんと共に東京へ戻った緒花は忙しく朝食の準備をして相変わらずの生活でした。皐月さんも相変わらずぐうたら母ちゃんに戻ってます(笑。学校へ駆ける緒花の手には「心が温まる、和のおもてなし」。住む場所が変わっても仲居仕事への情熱は変わらず、喜翆荘へ戻る日のため勉強を続けているのですね。短い制服から肌色をチラチラさせながら光のドアを抜けてEDへ。ほんと上下共短いな。
OPでは坂道や階段を下っていた緒花が平坦な道を走る。これはローリングストーンだった日々が「日常」へ戻ったことの表れでしょう。しかし電車に追い抜かれ、通行人にぶつかりながら緒花は必死に走る。自身の夢へ近付くために。
踏み切りで出会った、電車の進行方向に逆らいながら光へ向かって飛ぶ蝶。他人が敷いたレールに乗るよりも自身の思いに「ぼんぼる」ことを覚えた緒花は飛び行く蝶に自分を重ねたか笑顔で見送り、路傍に咲く花を跳び越える。この花よりも大きく咲く日を目指して。
今はまだ、きっとつぼみ。
だけど、だからこそ、高く高い太陽を見上げる。
喉を鳴らして水を飲む。
私は、これから咲こうとしているんだ。
「花咲くいろは」というタイトルは、それまで何となく生きていた緒花が「人生の花」を咲かせるための事始めという意味でした。ドラマチックな人生を渇望しながら結局流されるままの日々を送っていた緒花は、喜翆荘での様々な経験で大きく変わったけれど、それはまだ「いろは」の段階。ここから先、変わった緒花がどう生きていくのか非常に気になるけれど物語はこれにて一段落です。ううむ歯がゆい。
喜翆荘が復活するのかそれはまだわかりません。みんな他の人生を歩み始め、各々の道で各々のドラマが起きて、各々の「しがらみ」が生まれ、そうこうしているうちに喜翆荘は「思い出」の一つに埋もれてしまうかもしれない。もしエニシングが声を掛けても誰も集まらないかもしれない。しかしそれでもいいと思うのです。一つ屋根の下で泣き笑った輝ける日々は幻ではなく、間違いなく各々の人生の「水」となったはず。各々の花を咲かせるために喉を鳴らして飲んだ水は決して無駄にはならないのだから。
関係ないけど喜翆荘再起の段に駆け付けた緒花がまめ爺の恰好をしてボイラー番をしている姿を想像したら世の儚さを感じてしまった。もしかして仲居姿より似合ってるかも?(笑
というわけで2クールに渡って楽しませてくれた「花咲くいろは」は今回でオシマイ、連載レビューもこれにて終了です。第一話だけサラッと書いて終了するつもりだったのにダラダラと結局全話レビューしてしまいました。毎度毎度のダラダラ文を読んでいただいていた読者諸兄に感謝、そしてもちろん素晴らしい作品を楽しませてくれた制作スタッフに感謝です。放映当初はあまりにクオリティが高い作画に「いつまで保つのやら」と危惧しましたが、結局最終回まで目立つ破綻もないまま、それどころか背景美術のクオリティなど毎回唸るほどの美しさを楽しませてくれました。これはちょっと週アニメとは思えない出来映えでしょう。ほんと心の底からお疲れ様と伝えたいです。
ストーリーについては言いたい事は山ほどありますが…最終回が意外と綺麗に纏まってしまったので特に記することもないか。終わり良ければ全て良しってことで。とはいえ作画・演出に比べるとストーリーの粗が目立ったというか、2クールの尺の余裕が妙な方向へ働いてしまった感が無きにしも非ず。また作品の性質上登場キャラが多すぎて、つまり個々のキャラの掘り下げがほとんどされないまま終わっちゃって残念。個性的なドラマを持っていそうなキャラがたくさんいたのに。やはり連ドラは一年やらないとダメだ(無謀。ちなみに最終回付近で全員が善人にジョブチェンジするのはこのテの連ドラのお約束事なのでその点について私は無問題です。まあその辺の総括的なことは2~3日経って気分が落ちついたら追記するかもしないかも。
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