2011-09-05(Mon)
海賊戦隊ゴーカイジャー #28 翼よ永遠に
ブラックコンドル=結城 凱登場。

20年の年月を越えて、凱は凱のままでした。
↓記事が役立ったら一票どうぞ。

20年の年月を越えて、凱は凱のままでした。
ストーリーの節目節目に過去戦隊からのゲストが登場して古くからの戦隊ファンを喜ばせて止まないゴーカイジャー、今回のゲストは1991年2月より放映された「鳥人戦隊 ジェットマン」からブラックコンドルこと結城 凱が参戦です。ジェットマン好きの私は放映前からドキワクが止まらず、とはいえ「あのラストを迎えた凱」をいったいどう扱うのか正直不安も拭えませんでした。
ご存知の方も多いかと思いますが「戦うトレンディドラマ」と評されたジェットマンの最終回は、それまでの本編内容以上に小さいお友達向けの特撮番組とは思えない、大きなお友達すら絶句してしまう衝撃的なラストを迎えます。Aパートにて最終決戦にケリを付けた後のBパートは丸ごと「3年後」のエピローグで、全51話掛けた色恋沙汰のゴール「天堂竜(レッドホーク)と鹿鳴館香(ホワイトスワン)の結婚式」が舞台背景。二人の式へ贈る花を花屋で買う際に凱は偶然ひったくり犯に出くわし、追って捕まえるはいいけれど逆上したひったくり犯に刺されてしまう。その後凱は傷付いた体を引きずりながら結婚式に顔を出し、しかし刺されていることを誰にも告げぬままいつもどおり軽口を叩くと、澄み切った青空を見上げながら竜と短い会話を交わす。
「空が目に沁みやがる。綺麗な空だ」
「ああ。俺達が守ってきた青空だ」
鳥人戦隊として守りきった青空の下でベンチに座る凱は記念写真に賑わうみんなに微笑みながら、やがて力尽きたように咥えタバコを落とし、振っていた手を落とす。戦隊ヒーローとして巨大な敵と丁々発止の戦いを終えた3年後に、その戦いと無関係な「普通の人間」に刺されて…というあまりに衝撃的なラストは当時の小さいお友達にどれだけのトラウマを刻んだことでしょう。明確に死を描いたわけではありませんがそれはほぼ公然の秘密であって、もちろん私も「凱は死んだ」と思っていました。一方「死んでいない」と信じるファンもいるわけで…この辺の解釈の違いは何かと物議をかもしたものです。懐かしい。
さてそんな経緯が前提で今回のゴーカイジャー参戦です。これで凱が普通に生きてて普通に女をナンパして酒飲んで相変わらずの日々を送っていたとしたら私の20年は何だったんだ? また逆に死んでいるとしたらいったいどんな形でゴーカイジャーのストーリーに絡ませるのか? と、おそらくジェットマンのファンならば多かれ少なかれ不安を抱えての視聴だったと思います。
しかしジェットマン生みの親である井上敏樹氏はファンの思いを裏切りませんでした。凱の生死に明確な解答を示し、そして「その後の凱」は20年経っても凱のまま、若者たちに力を与えて去って行くという感涙のシナリオを用意してくれたのです。井上氏のラブコールによって出演された凱役の若松俊秀さんはつい数ヶ月前までヘルニアに苦しんでいたにも関わらず年月を感じさせない熱演を見せ、当時のスーツアクター大藤直樹さんも参戦と、「結城 凱」というキャラクターを生み出した三人が集った今回は私の予想をはるかに超える出来でありました。
というわけで今週はスイートプリキュアのレビューをお休みして急遽ゴーカイジャー第28話のレビューとさせていただきます。これを書かなきゃ男がすたる。

冒頭っからどこぞのバーでお姉ちゃん相手にポーカーの凱。ほんとに凱だ! って生きてるのか? とファンを惑わすこのシーンがいきなり憎い。ちなみに店の名前はパッと読める範囲(これがミソだったり)だと「Golden Gate」で、この名前はジェットマンにて凱が通っていたバーと同じ名前だったりします。そしてポーカー勝負の会話「フルハウス、私の勝ちね」「悪いな。ストレートフラッシュだ」というやり取りもジェットマン第2話の会話マンマだったりして。芸コマ。
勝負に勝った凱はどう見ても誘ってる無駄に色っぽいお姉ちゃんをスルーして「美味い酒が飲みたい」と願う。セリフも表情もいちいちキザでニヒルで凱そのものでファンとして嬉しい限りなのだけれど、予備知識ゼロでこのシーンを見た小さいお友達はどう感じただろう(笑。それはともかくこの冒頭シーンだけで既に解答が出ているとは思わなかった。どうしても凱の動きに目が行ってしまって店の看板の細部まで注視しなかったんだよねえ。ぐぬぬ。
OPテロップに書かれた「脚本:井上敏樹」「結城 凱:若松俊秀」、スーツアクター「大藤直樹」の名に感涙。

一応ゴーカイジャーのレビューなので本編を軽く。若き日(今でも若いけど)のトラウマたるキアイドーの登場に恐怖心を隠せないマーベラス。今はあの頃より腕を上げたはずなのにその恐怖心によって戦うことに怯え、為す術もなくキアイドーにやられてしまう。そのトラウマシーンは影とアングルによってキアイドーをより不気味に大きく見せる演出が効き、また受けたトラウマの大きさをマーベラスの表情が物語っています。常に強気なマーベラスがこんな顔を見せるとは。
変身後の対決シーンの演出も凝ってました。キアイドーに手も足も出ないゴーカイレッドは悔しさに拳を握り締め、しかしキアイドーを見つめる絵面は恐怖心から震えて霞み、そして振り下ろした拳は次のカットで机へふっと置かれる。これが悔しさだけのアクションなら「ドン!」と叩き付けるところ、そんな繊細な演出は「いつもと違う」マーベラスの心境を如実に描いていましたね。
船内へ戻ったみなさんへ鳥から「大いなる力」のお告げ。その内容から「ジェットマン」を浮かべた解説係の鎧は元ジェットマンたちの消息を説明…「無農薬野菜のネット販売で有名な社長」「アイドル」「メンバー同士で結婚」とよく知ってるなあ(笑。大石雷太(イエローオウル)はずいぶん出世なされた、アコちゃん(ブルースワロー)はジェットマン最終回で既に売れっ子アイドルでしたが今だ現役なのか。メンバー同士で結婚した人ってのは上で書いたとおりです。ここで凱の現在について言及しないのは事情通の鎧ですら「知らない」ということ。後に鎧は「ジェットマンの謎・消えたブラックコンドル」と話しますが、鎧の立ち位置は「戦隊ファンの視点」として描かれている側面もあり、つまり「凱の生死」は未だ闇の中という戦隊ファンの認識をそのまま表したものなのでしょう。

というわけでお待ちかねの凱が本編に登場しました。単車に乗って現れていきなり女子をナンパするとは…おっさんになっても行動パターンが変わってねえ! そして「男と納豆が嫌い」というセリフも当時のままです。泣けるね。ここの一悶着にて軽くアクション、ルカのパンチを軽く避けながらジョーのモバイレーツを拾ってサイナラの流れもスマートでした。若い子たちは謎のおっさんに手玉に取られて悔しかろう。
続いて凱はアイムの前へ現れました。やっぱり女子優先か(笑。手にモバイレーツをチラ付かせながら挑発する凱にマーベラスが殴りかかってアクションスタート、そんな二人のアクションの手前を鎧が横切ると凱&単車が消え…その瞬間思わず声を上げてさぶいぼ止まらない私。凱の姿は鎧には見えていない。やっぱりそうなのか。しかし鎧以外には姿も見えて物理干渉もできている。めんまみたいなもの?
すなわち「存る」けど「存ない」、「存ない」けど「存る」。人間としての結城凱は現世から消えてしまったけれど、戦隊ヒーローとしての凱(ブラックコンドル)の魂は確かに存在しているということなのでしょうね。

夜中に一人で剣を振り回す不審者の前へ現れた黒いめんま(違。キアイドーへの恐怖を拭えず、自分の弱さと向き合えないマーベラスへ凱は「ガキだな」と吐き捨て…一応現役のレッドをガキ扱いの凱はいかにも。ほんとこういうキャラなんだよなあ。
言うだけ言ってサッサとどこかへ行っちゃった凱を追うマーベラス。夜だった風景が彩度の低い昼間の映像へ変わり、凱の姿がスッと消えるとそこに凱の墓がありました。霧が立ちこめたファンタジックな雰囲気からして異空間っぽいけれどこのシーンは「現実」なのだろうか?
供え物のカップ麺は「陽気なアコちゃん」、ジェットマン第10話「カップめん」で出てきたアコちゃんヌードルです。懐かしい。雷太が持ってきたであろう「無農薬野菜」や凱のトレードマークである「タバコ」「マッカラン」の供え物もあって、綺麗に掃除された墓標は元ジェットマンの面々がマメに墓参りに来ていることを窺わせます。
そんなみんなを天空の凱は見ていたのでしょう。死してなお繋がっている絆。みんなが凱の事を思っているように、凱もみんなの事を思っている。一般人として平穏に暮らす仲間たちを戦いに巻き込みたくない。天界で飲んでいた酒が不味かったのはおそらく「地球の危機(仲間の危機)」と「力を預ける相手の体たらく」を知っていたからで、だから凱はポーカーで勝った褒美として「美味い酒を飲むため(マーベラスの目を覚まし大いなる力を預けるため)」に地上へ姿を現したのでしょう。

そして終盤のアクションへ。強敵キアイドーに対してさえ斜に構えた不敵な表情を崩さない凱かっこいい! そこからのアクションも最近までヘルニアで(以下略。長い脚をピンと伸ばした蹴りも素晴らしく美しい。この歳でこんなアクションをこなせる役者もそうそういないだろうな。
レンジャーキー無しでブラックコンドルへ変身できたのは凱が現実の存在ではないから? いやこれは後に語られる「死をも乗り越える意志の力」によるものなのでしょう。また挫折・葛藤を繰り返しその度に成長を続けたジェットマン時代に培われた大いなる力「自分に克つ力、自分の壁を打ち破る力」も凱の変身を後押ししているはず。変身後の大藤直樹さんの立ち回りもキレキレで思わず見蕩れてしまいます。ダッシュするブラックコンドルに凱が透けるカットはまさに「凱の魂」「凱の思い」がそこにあることを感じさせ、マーベラスはそんな凱の生き様(死んでるけど)についに目を覚まします。
ジェットマンの大いなる力を得たマーベラスはついに自分に克ち、自分の壁を打ち破ってキアイドーの正面へ立つことができました。凱はそんなマーベラスに満足げな笑みを浮かべ、「さっさとあいつを倒してこい」と二つのモバイレーツを投げ返す。ああかっこいい!

今回締めのゴーカイチェンジはもちろんジェットマンです。レンジャーキーによるハカセブラックコンドルをあえてユーモラスに描いていたのはこれが「真のブラックコンドルではない」というアピールでしょう。空を自由に飛び回って戦うジェットマンの描写やキメ技「ジェットフェニックス」のエフェクトなど当時の技術では不可能だった映像は、さすが20年の年月による合成・撮影技術の進歩を感じさせるもの。とはいえ昔の、言ってしまえば「チャチい特撮映像」もアレはアレで好きなんだよねえ。CGを多用した最近の映像は確かに綺麗だけれど「味わい」が無い、っていうか既に「特撮」じゃありませんもの。まあこの辺は懐古ファンの戯れ言ってことでご勘弁を。
見事キアイドーを倒した後は巨大ロボット戦を挟まずそのまま凱とのお別れシーンへ。ノルマである巨大ロボット戦をAパート冒頭に持ってきてラストを綺麗に繋げる構成はさすが井上氏わかってらっしゃる。販促パターンよりもストーリー展開の雰囲気を優先するためロボット戦をオミットする構成はジェットマン本編でもよく使われた手法で、こういう作りを含めて今回はしみじみ「ジェットマン第52話」なのだなあと。
ベンチに座った凱が青空を見上げてのラストシーン。これはジェットマンファンにとってこの上ないプレゼントでした。そして件の最終回ラストシーンを再現しながら若者たちへバトンを渡す凱のセリフへ。
「綺麗な空だ。目に沁みやがる」
「わかってるな? お前らが守る番だ。あの空を」
もう涙腺堤防が決壊しすぎて初見時には画面が見えませんでした。自分たちが守ってきた青空をこれからは若者たちへ託す、「海賊にそんな事を任せていいのか?」と問われるとバツが悪そうな仕草でごまかす凱…マーベラスを認めたことが照れくさくてついつい斜に構え、質問に答えないまま「あばよ」と一言告げてそのまま消えてしまう引き際はじつに凱らしい。ああもう!(声にならない叫び
凱が消えた後に見上げた青空に伸びる一条の飛行機雲も綺麗な演出でしたね。きっとあの雲の先に凱がいるのでしょう。

さて地上を後にした凱は再びバーにてお姉ちゃん相手にポーカー勝負、その勝負は地上での「美味い酒」を祝福するようにロイヤルストレートフラッシュで凱の勝ちでした。
「あんた、神様のくせに弱すぎだぜ」
ここで全てのネタバラシ。この女性の正体は「神様」で、バーの名前は「Golden Gate [Heaven]」。つまり今回冒頭から映されたここは「天国のバー」だったのです。やられた。ラストカットで映った手前テーブルの酒瓶(HEAVEN SKY)がダメ押しになってるのも憎い。
おそらく神様はポーカー勝負に託けて凱の望みを叶えてあげたのでしょう。死しても崩さない凱のスタイルを尊重しながら望みを叶える、きっとポーカーのイカサマもわかっているだろうに微笑みながら凱を立てる神様ってばいい女すぎる。
バーで酒をあおり、女を口説き、サックスを吹く。当時は所構わず吸っていたタバコを今回吸っていなかったのはさすがに時代性か。ともあれ健全であるべき戦隊ヒーローと対極にある、斜に構えた無頼漢でありながら、内面は誰よりも熱い漢。20年ぶりに会った凱は最後のワンカットまで凱のままであり、私の永遠の「ヒーロー」でありました。様々な制約がある中でこの素晴らしいエピソードを作り上げてくれた井上敏樹氏、若松俊秀さん、大藤直樹さんに感謝が止みません。戦隊シリーズを見続けていてほんと良かった。
本当は放映当日に記事を上げたかったのだけれど何度もリピートした挙句にジェットマンのVTRまで見始めてしまったため1日遅れの掲載となりました。何やってんだか。
ご存知の方も多いかと思いますが「戦うトレンディドラマ」と評されたジェットマンの最終回は、それまでの本編内容以上に小さいお友達向けの特撮番組とは思えない、大きなお友達すら絶句してしまう衝撃的なラストを迎えます。Aパートにて最終決戦にケリを付けた後のBパートは丸ごと「3年後」のエピローグで、全51話掛けた色恋沙汰のゴール「天堂竜(レッドホーク)と鹿鳴館香(ホワイトスワン)の結婚式」が舞台背景。二人の式へ贈る花を花屋で買う際に凱は偶然ひったくり犯に出くわし、追って捕まえるはいいけれど逆上したひったくり犯に刺されてしまう。その後凱は傷付いた体を引きずりながら結婚式に顔を出し、しかし刺されていることを誰にも告げぬままいつもどおり軽口を叩くと、澄み切った青空を見上げながら竜と短い会話を交わす。
「空が目に沁みやがる。綺麗な空だ」
「ああ。俺達が守ってきた青空だ」
鳥人戦隊として守りきった青空の下でベンチに座る凱は記念写真に賑わうみんなに微笑みながら、やがて力尽きたように咥えタバコを落とし、振っていた手を落とす。戦隊ヒーローとして巨大な敵と丁々発止の戦いを終えた3年後に、その戦いと無関係な「普通の人間」に刺されて…というあまりに衝撃的なラストは当時の小さいお友達にどれだけのトラウマを刻んだことでしょう。明確に死を描いたわけではありませんがそれはほぼ公然の秘密であって、もちろん私も「凱は死んだ」と思っていました。一方「死んでいない」と信じるファンもいるわけで…この辺の解釈の違いは何かと物議をかもしたものです。懐かしい。
さてそんな経緯が前提で今回のゴーカイジャー参戦です。これで凱が普通に生きてて普通に女をナンパして酒飲んで相変わらずの日々を送っていたとしたら私の20年は何だったんだ? また逆に死んでいるとしたらいったいどんな形でゴーカイジャーのストーリーに絡ませるのか? と、おそらくジェットマンのファンならば多かれ少なかれ不安を抱えての視聴だったと思います。
しかしジェットマン生みの親である井上敏樹氏はファンの思いを裏切りませんでした。凱の生死に明確な解答を示し、そして「その後の凱」は20年経っても凱のまま、若者たちに力を与えて去って行くという感涙のシナリオを用意してくれたのです。井上氏のラブコールによって出演された凱役の若松俊秀さんはつい数ヶ月前までヘルニアに苦しんでいたにも関わらず年月を感じさせない熱演を見せ、当時のスーツアクター大藤直樹さんも参戦と、「結城 凱」というキャラクターを生み出した三人が集った今回は私の予想をはるかに超える出来でありました。
というわけで今週はスイートプリキュアのレビューをお休みして急遽ゴーカイジャー第28話のレビューとさせていただきます。これを書かなきゃ男がすたる。

冒頭っからどこぞのバーでお姉ちゃん相手にポーカーの凱。ほんとに凱だ! って生きてるのか? とファンを惑わすこのシーンがいきなり憎い。ちなみに店の名前はパッと読める範囲(これがミソだったり)だと「Golden Gate」で、この名前はジェットマンにて凱が通っていたバーと同じ名前だったりします。そしてポーカー勝負の会話「フルハウス、私の勝ちね」「悪いな。ストレートフラッシュだ」というやり取りもジェットマン第2話の会話マンマだったりして。芸コマ。
勝負に勝った凱はどう見ても誘ってる無駄に色っぽいお姉ちゃんをスルーして「美味い酒が飲みたい」と願う。セリフも表情もいちいちキザでニヒルで凱そのものでファンとして嬉しい限りなのだけれど、予備知識ゼロでこのシーンを見た小さいお友達はどう感じただろう(笑。それはともかくこの冒頭シーンだけで既に解答が出ているとは思わなかった。どうしても凱の動きに目が行ってしまって店の看板の細部まで注視しなかったんだよねえ。ぐぬぬ。
OPテロップに書かれた「脚本:井上敏樹」「結城 凱:若松俊秀」、スーツアクター「大藤直樹」の名に感涙。

一応ゴーカイジャーのレビューなので本編を軽く。若き日(今でも若いけど)のトラウマたるキアイドーの登場に恐怖心を隠せないマーベラス。今はあの頃より腕を上げたはずなのにその恐怖心によって戦うことに怯え、為す術もなくキアイドーにやられてしまう。そのトラウマシーンは影とアングルによってキアイドーをより不気味に大きく見せる演出が効き、また受けたトラウマの大きさをマーベラスの表情が物語っています。常に強気なマーベラスがこんな顔を見せるとは。
変身後の対決シーンの演出も凝ってました。キアイドーに手も足も出ないゴーカイレッドは悔しさに拳を握り締め、しかしキアイドーを見つめる絵面は恐怖心から震えて霞み、そして振り下ろした拳は次のカットで机へふっと置かれる。これが悔しさだけのアクションなら「ドン!」と叩き付けるところ、そんな繊細な演出は「いつもと違う」マーベラスの心境を如実に描いていましたね。
船内へ戻ったみなさんへ鳥から「大いなる力」のお告げ。その内容から「ジェットマン」を浮かべた解説係の鎧は元ジェットマンたちの消息を説明…「無農薬野菜のネット販売で有名な社長」「アイドル」「メンバー同士で結婚」とよく知ってるなあ(笑。大石雷太(イエローオウル)はずいぶん出世なされた、アコちゃん(ブルースワロー)はジェットマン最終回で既に売れっ子アイドルでしたが今だ現役なのか。メンバー同士で結婚した人ってのは上で書いたとおりです。ここで凱の現在について言及しないのは事情通の鎧ですら「知らない」ということ。後に鎧は「ジェットマンの謎・消えたブラックコンドル」と話しますが、鎧の立ち位置は「戦隊ファンの視点」として描かれている側面もあり、つまり「凱の生死」は未だ闇の中という戦隊ファンの認識をそのまま表したものなのでしょう。

というわけでお待ちかねの凱が本編に登場しました。単車に乗って現れていきなり女子をナンパするとは…おっさんになっても行動パターンが変わってねえ! そして「男と納豆が嫌い」というセリフも当時のままです。泣けるね。ここの一悶着にて軽くアクション、ルカのパンチを軽く避けながらジョーのモバイレーツを拾ってサイナラの流れもスマートでした。若い子たちは謎のおっさんに手玉に取られて悔しかろう。
続いて凱はアイムの前へ現れました。やっぱり女子優先か(笑。手にモバイレーツをチラ付かせながら挑発する凱にマーベラスが殴りかかってアクションスタート、そんな二人のアクションの手前を鎧が横切ると凱&単車が消え…その瞬間思わず声を上げてさぶいぼ止まらない私。凱の姿は鎧には見えていない。やっぱりそうなのか。しかし鎧以外には姿も見えて物理干渉もできている。めんまみたいなもの?
すなわち「存る」けど「存ない」、「存ない」けど「存る」。人間としての結城凱は現世から消えてしまったけれど、戦隊ヒーローとしての凱(ブラックコンドル)の魂は確かに存在しているということなのでしょうね。

夜中に一人で剣を振り回す不審者の前へ現れた黒いめんま(違。キアイドーへの恐怖を拭えず、自分の弱さと向き合えないマーベラスへ凱は「ガキだな」と吐き捨て…一応現役のレッドをガキ扱いの凱はいかにも。ほんとこういうキャラなんだよなあ。
言うだけ言ってサッサとどこかへ行っちゃった凱を追うマーベラス。夜だった風景が彩度の低い昼間の映像へ変わり、凱の姿がスッと消えるとそこに凱の墓がありました。霧が立ちこめたファンタジックな雰囲気からして異空間っぽいけれどこのシーンは「現実」なのだろうか?
供え物のカップ麺は「陽気なアコちゃん」、ジェットマン第10話「カップめん」で出てきたアコちゃんヌードルです。懐かしい。雷太が持ってきたであろう「無農薬野菜」や凱のトレードマークである「タバコ」「マッカラン」の供え物もあって、綺麗に掃除された墓標は元ジェットマンの面々がマメに墓参りに来ていることを窺わせます。
そんなみんなを天空の凱は見ていたのでしょう。死してなお繋がっている絆。みんなが凱の事を思っているように、凱もみんなの事を思っている。一般人として平穏に暮らす仲間たちを戦いに巻き込みたくない。天界で飲んでいた酒が不味かったのはおそらく「地球の危機(仲間の危機)」と「力を預ける相手の体たらく」を知っていたからで、だから凱はポーカーで勝った褒美として「美味い酒を飲むため(マーベラスの目を覚まし大いなる力を預けるため)」に地上へ姿を現したのでしょう。

そして終盤のアクションへ。強敵キアイドーに対してさえ斜に構えた不敵な表情を崩さない凱かっこいい! そこからのアクションも最近までヘルニアで(以下略。長い脚をピンと伸ばした蹴りも素晴らしく美しい。この歳でこんなアクションをこなせる役者もそうそういないだろうな。
レンジャーキー無しでブラックコンドルへ変身できたのは凱が現実の存在ではないから? いやこれは後に語られる「死をも乗り越える意志の力」によるものなのでしょう。また挫折・葛藤を繰り返しその度に成長を続けたジェットマン時代に培われた大いなる力「自分に克つ力、自分の壁を打ち破る力」も凱の変身を後押ししているはず。変身後の大藤直樹さんの立ち回りもキレキレで思わず見蕩れてしまいます。ダッシュするブラックコンドルに凱が透けるカットはまさに「凱の魂」「凱の思い」がそこにあることを感じさせ、マーベラスはそんな凱の生き様(死んでるけど)についに目を覚まします。
ジェットマンの大いなる力を得たマーベラスはついに自分に克ち、自分の壁を打ち破ってキアイドーの正面へ立つことができました。凱はそんなマーベラスに満足げな笑みを浮かべ、「さっさとあいつを倒してこい」と二つのモバイレーツを投げ返す。ああかっこいい!

今回締めのゴーカイチェンジはもちろんジェットマンです。レンジャーキーによるハカセブラックコンドルをあえてユーモラスに描いていたのはこれが「真のブラックコンドルではない」というアピールでしょう。空を自由に飛び回って戦うジェットマンの描写やキメ技「ジェットフェニックス」のエフェクトなど当時の技術では不可能だった映像は、さすが20年の年月による合成・撮影技術の進歩を感じさせるもの。とはいえ昔の、言ってしまえば「チャチい特撮映像」もアレはアレで好きなんだよねえ。CGを多用した最近の映像は確かに綺麗だけれど「味わい」が無い、っていうか既に「特撮」じゃありませんもの。まあこの辺は懐古ファンの戯れ言ってことでご勘弁を。
見事キアイドーを倒した後は巨大ロボット戦を挟まずそのまま凱とのお別れシーンへ。ノルマである巨大ロボット戦をAパート冒頭に持ってきてラストを綺麗に繋げる構成はさすが井上氏わかってらっしゃる。販促パターンよりもストーリー展開の雰囲気を優先するためロボット戦をオミットする構成はジェットマン本編でもよく使われた手法で、こういう作りを含めて今回はしみじみ「ジェットマン第52話」なのだなあと。
ベンチに座った凱が青空を見上げてのラストシーン。これはジェットマンファンにとってこの上ないプレゼントでした。そして件の最終回ラストシーンを再現しながら若者たちへバトンを渡す凱のセリフへ。
「綺麗な空だ。目に沁みやがる」
「わかってるな? お前らが守る番だ。あの空を」
もう涙腺堤防が決壊しすぎて初見時には画面が見えませんでした。自分たちが守ってきた青空をこれからは若者たちへ託す、「海賊にそんな事を任せていいのか?」と問われるとバツが悪そうな仕草でごまかす凱…マーベラスを認めたことが照れくさくてついつい斜に構え、質問に答えないまま「あばよ」と一言告げてそのまま消えてしまう引き際はじつに凱らしい。ああもう!(声にならない叫び
凱が消えた後に見上げた青空に伸びる一条の飛行機雲も綺麗な演出でしたね。きっとあの雲の先に凱がいるのでしょう。

さて地上を後にした凱は再びバーにてお姉ちゃん相手にポーカー勝負、その勝負は地上での「美味い酒」を祝福するようにロイヤルストレートフラッシュで凱の勝ちでした。
「あんた、神様のくせに弱すぎだぜ」
ここで全てのネタバラシ。この女性の正体は「神様」で、バーの名前は「Golden Gate [Heaven]」。つまり今回冒頭から映されたここは「天国のバー」だったのです。やられた。ラストカットで映った手前テーブルの酒瓶(HEAVEN SKY)がダメ押しになってるのも憎い。
おそらく神様はポーカー勝負に託けて凱の望みを叶えてあげたのでしょう。死しても崩さない凱のスタイルを尊重しながら望みを叶える、きっとポーカーのイカサマもわかっているだろうに微笑みながら凱を立てる神様ってばいい女すぎる。
バーで酒をあおり、女を口説き、サックスを吹く。当時は所構わず吸っていたタバコを今回吸っていなかったのはさすがに時代性か。ともあれ健全であるべき戦隊ヒーローと対極にある、斜に構えた無頼漢でありながら、内面は誰よりも熱い漢。20年ぶりに会った凱は最後のワンカットまで凱のままであり、私の永遠の「ヒーロー」でありました。様々な制約がある中でこの素晴らしいエピソードを作り上げてくれた井上敏樹氏、若松俊秀さん、大藤直樹さんに感謝が止みません。戦隊シリーズを見続けていてほんと良かった。
本当は放映当日に記事を上げたかったのだけれど何度もリピートした挙句にジェットマンのVTRまで見始めてしまったため1日遅れの掲載となりました。何やってんだか。
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