2016-06-22(Wed)
ばくおん!! #12 もしものせかい!!
オートバイが無い世界は少しだけ寂しい。

1クールあっという間に駆け抜けた最終回です。


「私コケた事ないよー」
羽音の意外なヒトコトで始まった最終回冒頭は原作第39話「たちごけ!!」の一節から。原作だと教習終わりの聖&千雨と共にファミレスでダベるシーンで発せられるセリフですが、時系列が少々違うアニメ版ではこのセリフの前に交わされる「転倒」に纏わる会話を全部すっ飛ばし&部室シーンに改変されています。さらに「バイ太」の振りや布団バサミの蘊蓄や聖の新車についての話題も全てカットされサッサと帰宅と最終回も大胆にバッサリ。まあここでの会話はカットされても進行上特に問題ない(というか原作どおりだと時系列が歪む)ためテンポ&尺を考えれば正解か。とはいえせっかく聖の教習所エピソードをやったのに新車の話題が1mmも出ない=結局牛骨カブのまま終わってしまったのは残念至極、晴れて中免を取った聖が399バニガーレでみんなと走るトコ見たかった。
「うわあああああ!」
そんなこんなで明けて翌朝、由女ちゃんと共に玄関を出た羽音はめくれ防止の布団バサミを外してバイクカバーをガバッとめくり…引っ掛かって外れない布団バサミをグイグイやってるうちにサイドスタンドが外れてガッシャーン! 先のとおりコケた事が無い羽音は思いがけぬ初転倒(?)に大ショーック!でOPへ。いやはや他人事ながらこのコケ方は辛いキツい、羽音のこの顔に被る転倒音がまた心臓に悪かった(笑


「タンクに少し傷が付いてるけど…安心しな、これくらいなら私らで直せるよ」
あの倒れ方だとクラッチレバーは曲がるわヘタすりゃハンドルもウインカーもやっちゃいそうだけどそれはそれ、思わぬ初転倒をやらかし「どこか壊しちゃった?」と不安いっぱいの羽音はいかにもビギナーっぽく、一方恩紗はスーフォアをサッと見回し被害を確認するとさっそく修理にかかります。ところがガソリンを抜かずにタンクを外してしまったため女子二人の力ではヨ~ロヨロ…スーフォアのタンク容量は18Lなので比重七掛けとして約13kg、それにタンクの自重4~5kgを加えるとそれなりの重量なので女子には辛いかも。そしてゴールまであと僅かってトコでドンガラガッシャーン! うわキッツイ。転がっていくタンクをボーゼンと見つめる表情といい、この「やっちまった感」は整備ビギナーの通過儀礼かもしれない。
「バイ太? どうしたの? タンクだけになっちゃって」
傷だらけにしてしまったタンクの代わりとして、丁度都合良く在庫していた部品取りバイクのタンクが登場…というわけで教習所でお別れしたバイ太との再会が叶います。タンクキャップをパタパタ開けて成り行きを話すバイ太、しかしそのやり取りを傍から見ると羽音がキャップをパタパタさせていて、すなわち喋るバイクのファンタジーの暗黒面(笑)が明らかになるのでした。あははは。でも羽音にはバイ太の声が聞こえているのでしょう。格好付けの恩紗と違って(笑
「バイクは走りたがってなんていないの!」
「だからバイクに対して『おまえはもっと走りたいんだね』なんて話し掛けないで」
「もうあんな恥ずかしいセリフありゃしない。だから言わないでよ、絶対言わないでよ」
その後バイ太は延々と「走りたくない」とアピールするも羽音にはバイ太の本音がお見通し。いやよいやよもナントヤラと申しましょうか、熱湯コマーシャルと申しましょうか、キャップをパタッと閉じて黙ってしまったツンデレタンクをジッと見つめた羽音は――
「バイ太…バイ太はもっと走りたいんだね…」


その後ピカピカのパールピンクに塗り直されたタンクをスーフォアに付け、バイ太と一緒に走れる喜びに溢れる羽音…最終回だけに最後のサービスか凛も聖もえらく涼しげな(笑。ところが押して出る時ズルっと滑ってあわや転倒! ってなトコを仲間たちに支えられ、しかし当人は相変わらずマイペースというオチ。あはは。


「バイクもポケベルみたいに無くなっちゃう時代が来るのでしょうか?」
「大丈夫、人類はそこまで賢くはならない。つまりバイクもずっと残るって事さ」
Bパートは今回サブタイどおり原作第44話「もしものせかい!!」なのですが、原作に無いカブの蘊蓄や「バイクが無い世界」を匂わせる会話がアニメオリジナルで追加されていました。これら追加シーンは単に悪夢の夢オチである原作エピソードの補強として機能し、ひいてはアニメシリーズを纏めるエピソードとして上手く纏まったと思います。走行しながら「バイクが無い世界~」を話すくだりは各キャラの顔を映さず、そんな中で「オートバイに乗れればそれで十分」と語る羽音だけ満面笑顔を見せる意味深な演出にニヤマリ。それにしても早川さんじゃないけど「女子高生が本田宗一郎のモノマネをする(アニメが放映される)日が来ようとは」。

みなさん揃って本屋へ出掛けてバイク雑誌コーナーへ。ちなみに原作はこのシーンから始まります。女性向けの新雑誌を見つけてキラキラの羽音、カタナ特集を険しい表情で立ち読みする凛、バイブルならぬバイブスを買ってる例の神様との再会、そしてレジ前で大恥かかされた神様のご乱心までほぼ原作マンマに描写…まさか「お毛毛が!」を言わせるとは思わなかった。それにしても顔よりでっかい凛のブレストガードが改めて凄い(笑
「ところで佐倉羽音、キミはもしこの世界からバイクが無くなったらどうする?」
これまで何度か会っているとはいえ名前を知る機会など無かったはず、なのに羽音をフルネームでズバリ呼ぶ辺り本当に神様なのか。一方羽音は神様からの問い掛けを深く考えずそのまま帰宅。



ところが明けて翌朝 世界は一変していました。羽音のヘルメットは自転車用に変わり、街には何故か自転車が溢れ、ほどなく行き会った恩紗も凛も自転車に乗っていて、昨日買ったバイク雑誌は自転車雑誌に変わっていて…神様が言っていた「バイクが無い世界」に放り込まれてしまったのでした。ちなみに凛が乗ってる星形キャストが眩しい自転車はスズキスカイヤング(1978年発売)、当時の少年たちが羨望した「ウインカー自転車」時代の末期に登場した新機軸であります。セミドロップハンドルやらトップチューブのシフトレバー、ペダルを踏まなくても変速できるFF機構とか懐かしすぎる。ちなみにスズキバイクの代名詞たる星形キャストホイールが登場したのは1978年なので本当に同時期、自転車から750ccまで統一デザインなんてワクワクが止まらんじゃないですか。ほどなくチラリと登場した聖が組んで磨くだけの盆栽=金持ちの道楽を体現していてまた笑う。千雨の父ちゃんが「あっちの中野」ってのも気が利いてる小ネタですが若い人は判らんかも。そんな心配イマサラか。などなど「こっちの世界」のみんなは相変わらずなれど唯一違う所がありました。
「そっか、オートバイが無い世界には来夢先輩はいないんだ…」


その後も「バイクが無い世界」を呑気に楽しんでいた羽音でしたが、バイクの話題に対し全否定されると少しずつ寂しさが募り始め…初代オデッセイの逸話として先に話していたカブの逸話を絡め「月3万台でしょ?」と返すくだりはみんなとのすれ違いがブーストされてかなり切ないヒトコマでした。さらに理詰めのバイク不要論をマシンガンのように浴びせられ――
「賢くなれ羽音。自転車ってのは優れた人間しか乗れないんだからな」
現実と正反対に賢くなってしまった恩紗が呟くと、走り抜けていった100万円自転車を追ってみんな走り去ってしまいます。一人ポツンと残された羽音はそんなみんなを寂しげに見送りながら理詰めのバイク不要論に納得し、それでも「オートバイが無い世界は少しだけ寂しい」と涙を落とす。この一連もまるっと原作マンマですが動画と音と上田さんの演技で不覚にも目頭が熱くなってしまった。まさかばくおんで泣くとは!
さらにアニメオリジナルで追加された「口バイク」のシーンは、第1話で描かれたバイクに乗り始める前の口バイクとシンクロし、バイクが無い世界に一人取り残された羽音の寂しさを一層引き立てます。最終回に第1話との対比シーンを入れてキャラの変化を描くのは結構お約束な手法ですが、まさかほとんどギャグだった口バイクを拾ってこれほど切ないシーンに繋げるとは全く読めなかった。やられた。そして羽音のバイクへの強い思いによってついに顕現した、これまたアニメオリジナルの来夢先輩のカットも気が利いてます。この来夢先輩の顕現によって単なる夢オチではない何かを想像させる余地ができました。じつに良い改変。
やはり尺に余裕があるとこういう描写ができるのだなあ。ちなみに尺配分を見るとオリジナル要素が追加されているとはいえBパートだけで15分弱、つまり原作を丁寧になぞるとこれくらいの尺(アニメ1話で原作2話がせいぜい)を食ってしまうのですね。このペースでアニメ版全12話を逆算すると原作第24話まで、つまり聖がカブに乗ったエピソードでタイムアウト=千雨の出番が無いままアニメが終わってしまう。TVアニメ化自体が奇跡みたいな作品で2期など最初から想定外の外でしょうし、どうにか千雨を出してキリが良いトコで締めるため巻きに巻いたのも仕方ないとも思えます。難しいトコですね。


「遅いぞ羽音」
「今日ツーリングだってこと忘れてないでしょうね?」
「あら? まだパジャマですのね」
バイクの音で目を覚ました羽音は嬉しそうに階段を駆け下りるもヘルメットが無い下駄箱を見てしょんぼり沈み、しかし意を決してドアを開けると以前と変わらぬバイク部のみんなに迎えられ…アニメで追加された下駄箱カットは「バイクが無い世界」を一瞬思い出す羽音の機微をヒトコマで表す好演出で、こんな繊細な演出が出来るスタッフがあんな無残な原作カットを続けてきたと思うと本当に残念。そしてバイクカバーをめくって以前と変わらぬスーフォアと対面&バイ太と朝の挨拶を交わし、ってなトコへメットを持った由女ちゃんが来て締め。

出発と共に始まったEDは各キャラ&バイクを舐めるように映し込んで最後の挨拶? メーカーロゴの連打を眺めているとこれまで描かれてきたバイク部のドタバタが走馬灯のように浮かんできて何だかしんみりしちゃいます。さらにサブキャラたちのバイクライフをチラリと映し…貴重なRZV500にドリル付けちゃダメ!(笑
「バイクが今の人々に乗られるようになってたった100年。まだもうちょっとだけ彼らの手に委ねておこうか」
アニメのラストを締めたのは羽音たちに気付いたバイクの神様のヒトコトでした。つまり先の「バイクが無い世界」は神様が人類のバイクに対する思いを試した=その代表としてたまたま逆鱗に触れてしまった羽音(笑)が選ばれたという事かも。その結果「バイクがある世界」を取り戻し、仲間たちと楽しいバイクライフを送る姿を確かめた神様は満足げに一人どこかへ走り去り、一方何も知らないバイク部の面々は行き先の決まらないツーリング=未知のバイクライフに思いを馳せてアニメばくおんの幕引き。最終回にこのエピソードを持ってくるのはある程度予想していたけれど予想以上に綺麗なラストでした。ああ面白かった。

最終回のアイキャッチは前回に続いてヘルメットでした。来夢先輩でおなじみのSIMPSONからSPEEDWAY RX12、そしてAraiと並ぶ日本のトップメーカーSHOEIからJ.O、羽音が使っているJ-FORCE IIは廃盤モデルのため同じSHOEIのジェットヘルとしてこれになった?

エンドカードはバイク部揃ってピースサイン、ツーリング先で一瞬交わされるライダー同士の挨拶=一期一会の挨拶でお別れってのはじつにバイクアニメらしい。ここで掲げられている「UW」の看板は広井てつお氏による名作バイクマンガ「W1ララバイ」のヒトコマからの引用でしょう。ほんと洒落たラストメッセージでした。ちなみにW1に乗って旅立ったセブンティー爺ちゃんはこの後(以下ネタバレ自重のため削除
※軽く総評
アニメ化の報せを聞いた時はせいぜいコミックス付属のOADか、それとも単発の企画アニメで茶を濁すか、要するにせいぜいその程度の規模と思っていたのですが…それがまさかのTVアニメ化と知ってしこたま驚き、次の瞬間「こんなんTVでやって大丈夫なん?」と心配が募り、そんな日々を暫く過ごして4月早々放送が始まったと思ったら あっと言う間に1クール駆け抜けてしまった。早いねー。アニメシリーズ前半は無残すぎる原作カットに毎回毎回愕然としながら見守り、後半も引き続き激しいカットながら次第に塩梅が良くなってきて、そして今回最終回を迎えてみれば終わってしまうのが非常に寂しい。基本ネタである「バイクあるある」と並んで本作の見どころである「毒」も予想以上に盛り込まれ、見ているこっちがヒヤヒヤする「愛あるdis」もしっかり楽しませていただきました。
作画クオリティは正直言って今どきのアニメ作品にしてはやや低め安定でしたが、作画には結構ウルサイ私でもそれほど気にならなかった=作品の面白さは作画が全てではない事を再認識させられたと言ったら褒めすぎか。キャラ的にはやはり凛の存在が大きかったですね。原作でも見せ場が多いキャラですが、アニメ版でもいろんな意味で派手なキャラ性が炸裂して目立つ目立つ。東山さんの声もよく合ってました。これを機にスズキの知名度が少しでも向上すれば保菌者(笑)として本望であります。みんなスズキを選べ、スズキを買えー! あと特筆すべきはこれまでのバイクアニメから突出した感があったバイク描写か。これは3DCG技術(&作画との合成技術)の進化が前提なれど、原作設定に忠実なモデリング+実車録り走行音という拘りもあって、作中キャラの愛車として良い芝居を見せてくれたと思います。
ただこれほど綺麗に終わっただけに第5話の中途半端な駆け足編集が非常にもったいなかった。もちろん尺やその他諸々の都合もあるためツーリング内容の編集はある程度仕方ないけれど、ドタバタ走ってろくに観光地も回らず終わった北海道行きをクラスメイトにツッコまれた末の羽音の言葉――このエピソードの最も肝心な部分であり全てのツーリストの行動原理を代弁する「いーっぱい走るために行ったんだよ!」をスッパリ切ってしまったのは本当に本当に残念。その後の水着泡踊り(笑)をオミットしてもこのセリフ(シーン)だけは絶対に切ってはいけなかったと思う。全体的に振りが無いままオチだけ描かれるような歪な原作カットが多々見られた中、件の北海道編は振りだけでオチが無い非常に据わりが悪い改変で終わってしまった。私が監督ならTV本編は件の羽音のセリフで締めて、洗車泡踊りはBDの映像特典に回すけどなあ(笑
というわけで奇跡のTVアニメ「ばくおん!!」は今回でオシマイ、レビューもこれでオシマイです。原作ファンとしてまだまだ言いたい事はあるけれど予想以上に楽しめたのも事実なので、最終回を迎えた今は制作スタッフ各位に感謝する気持ちのが大きい。おそらく2期は無いだろうけど…億が一来るようだったら惜しくもオミットされてしまった特段に濃いぃエピソードをアニメで見てみたい。ではでは楽しい作品を作り上げてくれた制作スタッフ各位、そして相変わらずダラダラ長い記事にお付き合いくださった数少ない読者のみなさま、お疲れさま&ありがとうございました。
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1クールあっという間に駆け抜けた最終回です。


「私コケた事ないよー」
羽音の意外なヒトコトで始まった最終回冒頭は原作第39話「たちごけ!!」の一節から。原作だと教習終わりの聖&千雨と共にファミレスでダベるシーンで発せられるセリフですが、時系列が少々違うアニメ版ではこのセリフの前に交わされる「転倒」に纏わる会話を全部すっ飛ばし&部室シーンに改変されています。さらに「バイ太」の振りや布団バサミの蘊蓄や聖の新車についての話題も全てカットされサッサと帰宅と最終回も大胆にバッサリ。まあここでの会話はカットされても進行上特に問題ない(というか原作どおりだと時系列が歪む)ためテンポ&尺を考えれば正解か。とはいえせっかく聖の教習所エピソードをやったのに新車の話題が1mmも出ない=結局牛骨カブのまま終わってしまったのは残念至極、晴れて中免を取った聖が399バニガーレでみんなと走るトコ見たかった。
「うわあああああ!」
そんなこんなで明けて翌朝、由女ちゃんと共に玄関を出た羽音はめくれ防止の布団バサミを外してバイクカバーをガバッとめくり…引っ掛かって外れない布団バサミをグイグイやってるうちにサイドスタンドが外れてガッシャーン! 先のとおりコケた事が無い羽音は思いがけぬ初転倒(?)に大ショーック!でOPへ。いやはや他人事ながらこのコケ方は辛いキツい、羽音のこの顔に被る転倒音がまた心臓に悪かった(笑



「タンクに少し傷が付いてるけど…安心しな、これくらいなら私らで直せるよ」
あの倒れ方だとクラッチレバーは曲がるわヘタすりゃハンドルもウインカーもやっちゃいそうだけどそれはそれ、思わぬ初転倒をやらかし「どこか壊しちゃった?」と不安いっぱいの羽音はいかにもビギナーっぽく、一方恩紗はスーフォアをサッと見回し被害を確認するとさっそく修理にかかります。ところがガソリンを抜かずにタンクを外してしまったため女子二人の力ではヨ~ロヨロ…スーフォアのタンク容量は18Lなので比重七掛けとして約13kg、それにタンクの自重4~5kgを加えるとそれなりの重量なので女子には辛いかも。そしてゴールまであと僅かってトコでドンガラガッシャーン! うわキッツイ。転がっていくタンクをボーゼンと見つめる表情といい、この「やっちまった感」は整備ビギナーの通過儀礼かもしれない。
「バイ太? どうしたの? タンクだけになっちゃって」
傷だらけにしてしまったタンクの代わりとして、丁度都合良く在庫していた部品取りバイクのタンクが登場…というわけで教習所でお別れしたバイ太との再会が叶います。タンクキャップをパタパタ開けて成り行きを話すバイ太、しかしそのやり取りを傍から見ると羽音がキャップをパタパタさせていて、すなわち喋るバイクのファンタジーの暗黒面(笑)が明らかになるのでした。あははは。でも羽音にはバイ太の声が聞こえているのでしょう。格好付けの恩紗と違って(笑
「バイクは走りたがってなんていないの!」
「だからバイクに対して『おまえはもっと走りたいんだね』なんて話し掛けないで」
「もうあんな恥ずかしいセリフありゃしない。だから言わないでよ、絶対言わないでよ」
その後バイ太は延々と「走りたくない」とアピールするも羽音にはバイ太の本音がお見通し。いやよいやよもナントヤラと申しましょうか、熱湯コマーシャルと申しましょうか、キャップをパタッと閉じて黙ってしまったツンデレタンクをジッと見つめた羽音は――
「バイ太…バイ太はもっと走りたいんだね…」



その後ピカピカのパールピンクに塗り直されたタンクをスーフォアに付け、バイ太と一緒に走れる喜びに溢れる羽音…最終回だけに最後のサービスか凛も聖もえらく涼しげな(笑。ところが押して出る時ズルっと滑ってあわや転倒! ってなトコを仲間たちに支えられ、しかし当人は相変わらずマイペースというオチ。あはは。


「バイクもポケベルみたいに無くなっちゃう時代が来るのでしょうか?」
「大丈夫、人類はそこまで賢くはならない。つまりバイクもずっと残るって事さ」
Bパートは今回サブタイどおり原作第44話「もしものせかい!!」なのですが、原作に無いカブの蘊蓄や「バイクが無い世界」を匂わせる会話がアニメオリジナルで追加されていました。これら追加シーンは単に悪夢の夢オチである原作エピソードの補強として機能し、ひいてはアニメシリーズを纏めるエピソードとして上手く纏まったと思います。走行しながら「バイクが無い世界~」を話すくだりは各キャラの顔を映さず、そんな中で「オートバイに乗れればそれで十分」と語る羽音だけ満面笑顔を見せる意味深な演出にニヤマリ。それにしても早川さんじゃないけど「女子高生が本田宗一郎のモノマネをする(アニメが放映される)日が来ようとは」。

みなさん揃って本屋へ出掛けてバイク雑誌コーナーへ。ちなみに原作はこのシーンから始まります。女性向けの新雑誌を見つけてキラキラの羽音、カタナ特集を険しい表情で立ち読みする凛、バイブルならぬバイブスを買ってる例の神様との再会、そしてレジ前で大恥かかされた神様のご乱心までほぼ原作マンマに描写…まさか「お毛毛が!」を言わせるとは思わなかった。それにしても顔よりでっかい凛のブレストガードが改めて凄い(笑
「ところで佐倉羽音、キミはもしこの世界からバイクが無くなったらどうする?」
これまで何度か会っているとはいえ名前を知る機会など無かったはず、なのに羽音をフルネームでズバリ呼ぶ辺り本当に神様なのか。一方羽音は神様からの問い掛けを深く考えずそのまま帰宅。





ところが明けて翌朝 世界は一変していました。羽音のヘルメットは自転車用に変わり、街には何故か自転車が溢れ、ほどなく行き会った恩紗も凛も自転車に乗っていて、昨日買ったバイク雑誌は自転車雑誌に変わっていて…神様が言っていた「バイクが無い世界」に放り込まれてしまったのでした。ちなみに凛が乗ってる星形キャストが眩しい自転車はスズキスカイヤング(1978年発売)、当時の少年たちが羨望した「ウインカー自転車」時代の末期に登場した新機軸であります。セミドロップハンドルやらトップチューブのシフトレバー、ペダルを踏まなくても変速できるFF機構とか懐かしすぎる。ちなみにスズキバイクの代名詞たる星形キャストホイールが登場したのは1978年なので本当に同時期、自転車から750ccまで統一デザインなんてワクワクが止まらんじゃないですか。ほどなくチラリと登場した聖が組んで磨くだけの盆栽=金持ちの道楽を体現していてまた笑う。千雨の父ちゃんが「あっちの中野」ってのも気が利いてる小ネタですが若い人は判らんかも。そんな心配イマサラか。などなど「こっちの世界」のみんなは相変わらずなれど唯一違う所がありました。
「そっか、オートバイが無い世界には来夢先輩はいないんだ…」



その後も「バイクが無い世界」を呑気に楽しんでいた羽音でしたが、バイクの話題に対し全否定されると少しずつ寂しさが募り始め…初代オデッセイの逸話として先に話していたカブの逸話を絡め「月3万台でしょ?」と返すくだりはみんなとのすれ違いがブーストされてかなり切ないヒトコマでした。さらに理詰めのバイク不要論をマシンガンのように浴びせられ――
「賢くなれ羽音。自転車ってのは優れた人間しか乗れないんだからな」
現実と正反対に賢くなってしまった恩紗が呟くと、走り抜けていった100万円自転車を追ってみんな走り去ってしまいます。一人ポツンと残された羽音はそんなみんなを寂しげに見送りながら理詰めのバイク不要論に納得し、それでも「オートバイが無い世界は少しだけ寂しい」と涙を落とす。この一連もまるっと原作マンマですが動画と音と上田さんの演技で不覚にも目頭が熱くなってしまった。まさかばくおんで泣くとは!
さらにアニメオリジナルで追加された「口バイク」のシーンは、第1話で描かれたバイクに乗り始める前の口バイクとシンクロし、バイクが無い世界に一人取り残された羽音の寂しさを一層引き立てます。最終回に第1話との対比シーンを入れてキャラの変化を描くのは結構お約束な手法ですが、まさかほとんどギャグだった口バイクを拾ってこれほど切ないシーンに繋げるとは全く読めなかった。やられた。そして羽音のバイクへの強い思いによってついに顕現した、これまたアニメオリジナルの来夢先輩のカットも気が利いてます。この来夢先輩の顕現によって単なる夢オチではない何かを想像させる余地ができました。じつに良い改変。
やはり尺に余裕があるとこういう描写ができるのだなあ。ちなみに尺配分を見るとオリジナル要素が追加されているとはいえBパートだけで15分弱、つまり原作を丁寧になぞるとこれくらいの尺(アニメ1話で原作2話がせいぜい)を食ってしまうのですね。このペースでアニメ版全12話を逆算すると原作第24話まで、つまり聖がカブに乗ったエピソードでタイムアウト=千雨の出番が無いままアニメが終わってしまう。TVアニメ化自体が奇跡みたいな作品で2期など最初から想定外の外でしょうし、どうにか千雨を出してキリが良いトコで締めるため巻きに巻いたのも仕方ないとも思えます。難しいトコですね。



「遅いぞ羽音」
「今日ツーリングだってこと忘れてないでしょうね?」
「あら? まだパジャマですのね」
バイクの音で目を覚ました羽音は嬉しそうに階段を駆け下りるもヘルメットが無い下駄箱を見てしょんぼり沈み、しかし意を決してドアを開けると以前と変わらぬバイク部のみんなに迎えられ…アニメで追加された下駄箱カットは「バイクが無い世界」を一瞬思い出す羽音の機微をヒトコマで表す好演出で、こんな繊細な演出が出来るスタッフがあんな無残な原作カットを続けてきたと思うと本当に残念。そしてバイクカバーをめくって以前と変わらぬスーフォアと対面&バイ太と朝の挨拶を交わし、ってなトコへメットを持った由女ちゃんが来て締め。

出発と共に始まったEDは各キャラ&バイクを舐めるように映し込んで最後の挨拶? メーカーロゴの連打を眺めているとこれまで描かれてきたバイク部のドタバタが走馬灯のように浮かんできて何だかしんみりしちゃいます。さらにサブキャラたちのバイクライフをチラリと映し…貴重なRZV500にドリル付けちゃダメ!(笑
「バイクが今の人々に乗られるようになってたった100年。まだもうちょっとだけ彼らの手に委ねておこうか」
アニメのラストを締めたのは羽音たちに気付いたバイクの神様のヒトコトでした。つまり先の「バイクが無い世界」は神様が人類のバイクに対する思いを試した=その代表としてたまたま逆鱗に触れてしまった羽音(笑)が選ばれたという事かも。その結果「バイクがある世界」を取り戻し、仲間たちと楽しいバイクライフを送る姿を確かめた神様は満足げに一人どこかへ走り去り、一方何も知らないバイク部の面々は行き先の決まらないツーリング=未知のバイクライフに思いを馳せてアニメばくおんの幕引き。最終回にこのエピソードを持ってくるのはある程度予想していたけれど予想以上に綺麗なラストでした。ああ面白かった。

最終回のアイキャッチは前回に続いてヘルメットでした。来夢先輩でおなじみのSIMPSONからSPEEDWAY RX12、そしてAraiと並ぶ日本のトップメーカーSHOEIからJ.O、羽音が使っているJ-FORCE IIは廃盤モデルのため同じSHOEIのジェットヘルとしてこれになった?

エンドカードはバイク部揃ってピースサイン、ツーリング先で一瞬交わされるライダー同士の挨拶=一期一会の挨拶でお別れってのはじつにバイクアニメらしい。ここで掲げられている「UW」の看板は広井てつお氏による名作バイクマンガ「W1ララバイ」のヒトコマからの引用でしょう。ほんと洒落たラストメッセージでした。ちなみにW1に乗って旅立ったセブンティー爺ちゃんはこの後(以下ネタバレ自重のため削除
※軽く総評
アニメ化の報せを聞いた時はせいぜいコミックス付属のOADか、それとも単発の企画アニメで茶を濁すか、要するにせいぜいその程度の規模と思っていたのですが…それがまさかのTVアニメ化と知ってしこたま驚き、次の瞬間「こんなんTVでやって大丈夫なん?」と心配が募り、そんな日々を暫く過ごして4月早々放送が始まったと思ったら あっと言う間に1クール駆け抜けてしまった。早いねー。アニメシリーズ前半は無残すぎる原作カットに毎回毎回愕然としながら見守り、後半も引き続き激しいカットながら次第に塩梅が良くなってきて、そして今回最終回を迎えてみれば終わってしまうのが非常に寂しい。基本ネタである「バイクあるある」と並んで本作の見どころである「毒」も予想以上に盛り込まれ、見ているこっちがヒヤヒヤする「愛あるdis」もしっかり楽しませていただきました。
作画クオリティは正直言って今どきのアニメ作品にしてはやや低め安定でしたが、作画には結構ウルサイ私でもそれほど気にならなかった=作品の面白さは作画が全てではない事を再認識させられたと言ったら褒めすぎか。キャラ的にはやはり凛の存在が大きかったですね。原作でも見せ場が多いキャラですが、アニメ版でもいろんな意味で派手なキャラ性が炸裂して目立つ目立つ。東山さんの声もよく合ってました。これを機にスズキの知名度が少しでも向上すれば保菌者(笑)として本望であります。みんなスズキを選べ、スズキを買えー! あと特筆すべきはこれまでのバイクアニメから突出した感があったバイク描写か。これは3DCG技術(&作画との合成技術)の進化が前提なれど、原作設定に忠実なモデリング+実車録り走行音という拘りもあって、作中キャラの愛車として良い芝居を見せてくれたと思います。
ただこれほど綺麗に終わっただけに第5話の中途半端な駆け足編集が非常にもったいなかった。もちろん尺やその他諸々の都合もあるためツーリング内容の編集はある程度仕方ないけれど、ドタバタ走ってろくに観光地も回らず終わった北海道行きをクラスメイトにツッコまれた末の羽音の言葉――このエピソードの最も肝心な部分であり全てのツーリストの行動原理を代弁する「いーっぱい走るために行ったんだよ!」をスッパリ切ってしまったのは本当に本当に残念。その後の水着泡踊り(笑)をオミットしてもこのセリフ(シーン)だけは絶対に切ってはいけなかったと思う。全体的に振りが無いままオチだけ描かれるような歪な原作カットが多々見られた中、件の北海道編は振りだけでオチが無い非常に据わりが悪い改変で終わってしまった。私が監督ならTV本編は件の羽音のセリフで締めて、洗車泡踊りはBDの映像特典に回すけどなあ(笑
というわけで奇跡のTVアニメ「ばくおん!!」は今回でオシマイ、レビューもこれでオシマイです。原作ファンとしてまだまだ言いたい事はあるけれど予想以上に楽しめたのも事実なので、最終回を迎えた今は制作スタッフ各位に感謝する気持ちのが大きい。おそらく2期は無いだろうけど…億が一来るようだったら惜しくもオミットされてしまった特段に濃いぃエピソードをアニメで見てみたい。ではでは楽しい作品を作り上げてくれた制作スタッフ各位、そして相変わらずダラダラ長い記事にお付き合いくださった数少ない読者のみなさま、お疲れさま&ありがとうございました。
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